フィージビリティ・スタディ、通称FSという言葉をよく耳にする。実現可能性調査、という意味である。この『実現可能性調査』の響きの軽さにこの業界に入って驚いた。以前、自動車会社で働いていた時には、FSはもっと実体のあるものだった。FSだけでなく、量産開始までの各ステップで細かな設計・積算・様々なテストや評価項目が事細かに定められていて、どれ一つ通らなくても次のステップには進めない。現実味のある、現実味しかないステップ・バイ・ステップを経て、量産可能なモノが形作られていく。
ところが再エネ業界、コンサル業界(コンサルといっても幅広いので、モノをちゃんと自力で作るところは違うかもしれない。)で、特に行政や国の施策などに関わるFSは眉ツバな内容のものがかなりある。たとえて言うと、こんな感じ。「家は一般的に建設費1500万円です。家賃は一般的に12万円です。金利は0.5%なので事業採算性があります。」この内容を、きれいにまとめて資料をつけて報告書にしてある。ところでこれをベースに賃貸住宅を建ててください、採算が取れるらしいので、と言って設計事務所に持ち込んでも相手にされないのは目に見えている。なぜって全く具体性がないのだ。
もう一つたとえるとこんな感じ「A工場では排熱があります。B集合住宅では熱の需要があります。ここをマッチングすれば熱の有効利用ができます。」これを細かな計算式だの何だのをこねくり回して報告書にしてある。さて、実際に排熱が出ている工場の熱をたとえ近所でも持ってくるとなると、めちゃくちゃ大変である。道路埋設で配管を引くのかい?その熱はちゃんと家でお風呂を沸かす時間にも余っていて、使えるのかい?工場が休みの日にはどうなるの?何より給湯器入れたほうが安いけど、だれが費用を負担するのさ?
これが、せめてもう少し踏み込んだ内容であれば、と思う調査が多々ある。自治体や省庁はそんな調査(というより報告書の作成作業)に税金をつぎ込んで、さて事業化ができる、と担当者はホッと一息。ところがそのあとが進まない。当たり前である。
実現可能性調査というのは名ばかりで「実現可能」を前提に都合のよい情報を見栄えよくまとめた報告書というべきか。本来は不明確な前提条件も細かに記載して、分からないことは分からない(だから次は何々について調査や意思決定が必要だ)、難しいことは難しいと示すべきなのではないだろうか。
最近も、かなりガッカリの内容のFS報告書を目にした。あぁ、またか、と思い、すでにFSの段階は終わっているので事業化したいと言われる案件をどうやってサポートしたらいいのか頭を悩ませている。
かなり大手の有名どころでもこんな調子の報告書は多々ある。コンサルなんてモチを絵に描くような商売だと、それぞれみんなが思っているのだろうか。ゴマメの歯ぎしりとは分かっているが、実現可能性が全く見えない『実現可能性調査』報告書の後始末を、その調査費よりずいぶん安い額で背負い込むのは荷が重すぎる。せめてもう少し調査に良心と誠実さを・・と願わずにはいられない。